昔取ったポカリスエット柄

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要約・書評 ザ メンタルゲーム

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ザ メンタル ゲーム

(Jared Tendler,Barry Carter,松山宗彦 訳,パンローリング社,2017)

「ポーカーで必要なアクション、思考、感情を認識するためのスキル」

良いサブタイトル。読みたいと思いつつ1年弱が経過していたけど正月に買って年明けに読んだ本。
ここ最近読んだ本の中でも屈指の面白さだった。私自身はポーカーより麻雀ばかりしてるけど、その類の勝負事だったり相場が趣味の人は一読の価値がある。

ちなみにポーカーは最近ほとんどやってなくて、2月に一回やったときはポーカーというものを何も覚えてなかったので「ドンクベットするぞ!」って言いながらたくさんドンクベットした。

第1章 イントロダクション

メンタルゲーム(筆者感想:本書では一度もメンタルゲームという言葉が定義されない。一般的な用語じゃなさそうだけど、なんとなく意味は把握できる)においても、通常のゲームと同様、理論と最新の研究結果に基づいた訓練が必要。
本書で取り扱うのは、メンタルゲームの中でも、ポーカーで直面する4つの中心分野、ティルト、恐怖、モチベーション、自信。それ以外にも集中力、自己規律、意思決定、ゾーン等の重要分野があるが、特に重要な上記4分野から改善に取り組む。

メンタルゲームの神話には以下のようなものがある。
・感情は問題を引き起こす原因であり常に遮断しておく必要がある
・メンタルゲームの才能はあるかないかである
・癖をなくすというのは「これをやっちゃダメ」と言い聞かせるだけでできるようになるシンプルな問題である
・自分がティルト(感情的になる)しそうだと感じたら常にプレイを止めるべきである
・自分が勝っている姿を思い浮かべることで勝ちを呼び込むことができる
・下振れを生き抜くカギは休憩を挟んだり、ステークス(レート)を下げたりすることである
・A-ゲーム(自分の能力を最大限発揮できている状態)をプレイできるかは偶然による
・メンタルゲームは深淵で複雑で謎の多い存在である
(筆者感想:世間的にも割と正しいと考えられていそうな概念が混じっていて新鮮)

第2章 理論的基礎

メンタルゲームを改善するためのシステムの基盤となる3つの理論は①成人学習モデル(ALM)、②尺取虫、③プロセスモデル

成人学習モデル(ALM)

特定のスキルを学ぶ際の学習プロセスは全体では常に同じで以下の4段階。
レベル1 無意識的無能:自分に欠けているスキルもわかっていない状態
レベル2 意識的無能:自分が知らないことが何かを自覚している状態
レベル3 意識的有能:手に入れたスキルを発揮するためには意識して思考を巡らせる必要がある状態
レベル4 無意識的有能:その物事を十分に学習し、考えることなく完全に自動的に行うことができる状態
ある瞬間に考えられることは限られており、自分のどのスキルがALMのどの段階にあることかを自覚することは重要。あるスキルに関して無意識的有能になることで、別の弱点を克服するための余裕が生まれる。

尺取虫

改善プロセスにおける時間と改善の関係を示す概念。
プレイの質について、横軸を質、縦軸を頻度とすると、釣鐘型の曲線になる。すなわち、右側は意識的有能を含む良い意思決定ができた場合、左側は自分の欠点が出たミスプレイ。
プレイが進歩するとき、釣鐘曲線の変化は尺取虫が移動するときと同様の動きとなる。何らかのスキルを学ぶと釣鐘曲線の右側が前進し、プレイの質の幅が広がる。この時点では下手な部分は残っているため、弱点を修正し自分の最悪の部分を打ち消すことで、釣鐘曲線の左側を引き付けることが効率的な前進に繋がる。
つまり、進歩のためには弱点の克服と長所の向上のアプローチがあり、C-ゲーム(最悪の内容)を取り除くことでA-ゲーム(自分のベスト)をより高める潜在的可能性が生まれる。
逆に言えば、弱点を放置すると、プレイの質の幅が広がる(悪い状態のときに劇的にプレイの質が落ちる)。
また、自分の最低の部分と最高の部分の比較には意味がなく、最悪のプレイをしたときに過去の自分の最悪のプレイと比較して、改善を認識すべき。その進歩の認識が自信に繋がる。

プロセスモデル

準備⇒実行⇒結果⇒評価(プレイ後すぐのレビュー)⇒分析の一連の流れ。
より計画的、可測的、効率的な改善アプローチが可能になり、ALMと尺取虫の原理を取り入れることに繋がる。

第3章 感情

感情は問題の兆候であり悪いプレイをする真の原因ではない。感情は自身のメンタルゲームの改善点を浮き彫りにするものであり、問題そのものではない。
(ex.バットビート(不運な負け)がティルトを引き起こすわけではない。弱い相手に負けるなんてありえないと信じる権利意識(=メンタルゲームの欠陥)が、バットビートの際にティルトを誘発する)

解消

感情を問題それ自体ではなく問題の兆候ととらえた場合、メンタルゲームの問題の根本的な解決策は「解消」になる。
ポーカーにネガティブな影響を与える怒りや恐れといったネガティブな感情は、根本的原因を解消できたときに消える。
メンタルゲーム上の問題の解消方法については4章に記載。

精神的機能不全

脳は階層的に構成されている。最初のレベルは最重要な心臓の脈拍、呼吸、バランス、睡眠/覚醒サイクル等の機能。無意識的有能はここに含まれる。第2に感情システム、第3にメンタルレベル、すなわち思考、計画、認知、知覚、組織化、感情コントロール等の高度な脳機能が備わる。
感情システムが活動過剰状態になると、第3レベルの機能は発揮されない。
こうならないよう(感情的臨界点に達さないよう)感情をコントロール必要性がある。また、こうなった場合、ALMにおける意識的有能は失われ(=思考能力が大幅に低下し)、無意識的有能だけがプレイに残る。

  • 感情の原因
    感情の原因は無意識的有能(の欠陥=上記バットビートの例)と精神。精神は感情を増幅する。

  • 蓄積された感情
    前回プレイ時の感情が次のプレイまでに消え去らないことがある。その積み重ねにより蓄積された感情は最も修正が困難。自己コントロールする唯一の手段は、テーブルを離れているときに蓄積された感情を減らしておくこと。方法は4章に記載。

  • 感情とパフォーマンス
    感情はパフォーマンスにとって重要。感情が問題を引き起こすのは弱すぎるときか強すぎるとき(cf.ヤーキーズ・ドットソンの法則:感情の高まりとともにパフォーマンスは向上するが、あるポイントからは感情システムが思考力を低下させ、パフォーマンスを低下させる)。

第4章 戦略

メンタルゲームの4つの中心分野(ティルト、恐怖、モチベーション、自信)は似た法則に従って発生するため、対処法も似た戦略となる。
その2つの基本的戦略は①論理注入、②解消。

論理注入

プレイ中にメンタルゲームの問題を封じ込め、解消のための第一歩となる短期的な戦略。自分に向って言い聞かせること。
最も効果を発揮するのは、感情的臨界点に達する前に感情の蓄積を感じ取れる場合や、論理自体が根元的欠陥を修正してくれる場合。
論理注入戦略のステップは次の6つ。認識⇒深呼吸⇒論理注入⇒戦略的注意喚起⇒必要に応じて繰り返し⇒終了。
認識においては、自分の問題が発生するパターンを学習することが有効。メンタルゲームのプロフィールを作り定期的に研究する、問題の結果を検討する(改善のモチベーションにする)、(プレイに没頭して問題の発生に気づかないなら)アラームをセットする等が学習の手段。
論理注入においては、頭の働きを正常に保つ助けになる声明を心の中で、または声に出して自分に語り掛ける。その声明は自分の問題の原因である欠陥や誤った論理を修正できるものであり、それをあらかじめ付箋や携帯のメモ等に書き付けておく(思い出すのに精神力に頼る必要がない)ことが有効。
戦略的注意喚起とは、問題の察知が遅れた際でも技術的なキーポイント、学習中の技術をすぐ思い出せるようにしておくこと。具体的には、自分が判断する際に「見落としがちなポイントのみ」または「考慮するすべてのポイント」を書いたリストを論理注入声明と同じところに準備する。

解消

メンタルゲームの問題を引き起こしている間違った理論を修正するための長期的な戦略。欠陥の修正が無意識的有能のレベルに達することが目標。 そのためには、メンタルハンド履歴の活用、改善を記録する、思考を書き留める等が有効。 メンタルハンド履歴は、以下の5手順によって問題発生の根源を突き止める。
1.問題を記述する:メンタルゲーム上の問題を実際に書き出す
2.そのような反応をすることがなぜ論理的に意味が通るか?:問題が発生するときの思考のロジックを考え 、以下の3つのステップに答える
3.なぜその論理には欠陥があるのか?:正確性が重要なので、現在の自分の手持ちの答えから探さない(cf.コントロール幻想)
4.この状況への正しい対処方法は何か?:単に欠陥を指摘する(ex.不運は発生するから悩まされてはならない)のではなく、根元的欠陥を修正する(なるべく)肯定的な声明を書き出す(ex.自分がコントロールできるのは自分のプレイと結果に対するアクションだけ)
5.その修正はなぜ正しいのか?:ステップ4の対処方法がなぜ正しいかの合理的理由を明確にする

第5章 ティルト

ティルトの一般的な定義は広すぎるため、本書では怒り+ミスプレイの問題と定義する。ひどいプレイをするいくつもの原因の1つ1つに対して、ユニークな戦略が必要。怒りの発生要因は2つあり、無意識的有能レベルで学習された悪い癖(論理的欠陥)と、自分が怒っていることを認識することで起きる怒り。

ティルトの発生のしかたは人によって違うため、その性質を分析し、ティルトプロフィールを作る。改善の度合いを測る基準にもなる。記憶が新鮮なため、ティルトしたセッションの直後がベストタイミング。
ティルトプロフィールを作る質問:何が要因か?ティルトしはじめたときどのような発言をするか?どういう風に自分のティルトに気づくか?身体はどう反応するか?自分がティルトに対処し始めるのはどの時点か?

代表的なティルト7パターン

悪い流れティルト:複数のタイプのティルトが短時間に立て続けに発生することで精神的リセットが間に合わなくなる。
不正義ティルト:バットビート、クーラー(展開上、必然的に大きく負けざるを得ないハンド)、サックアウト等により、不公平と感じるティルト。
負けず嫌いティルト:分散を理解しているのに負けを忌み嫌う
ミステイクティルト:学習プロセスに対する理解の誤りのため、ミスにいらつく
権利ティルト:自分が勝ってしかるべきと信じているのに負ける
復讐ティルト:相手からのリスペクトの欠如等により仕返してやりたいと思う
死にものぐるいティルト:失った金を取り戻す思いが強すぎ、超ロングセッションプレイをしたり無理矢理アクションを起こす。他のティルトと複合して発生しがち

ティルト対策の一般的な戦略

1.認識:自分のティルトのパターンを熟知しているだけでは不十分。ティルトしている、またはその方向に向かっていることをプレイしているその瞬間に認識する。
2.準備:自分のティルトプロフィールや論理注入声明、戦略的注意喚起等をプレイ前に確認し、いつでも利用できるようにしておく。
3.実行・パフォーマンス:ティルトの兆候があらわれたら論理注入。怒りを生き起こしたハンドがあれば後から分析するためメモしておく。
4.評価:ゆるくティルトした日は自分のティルトへの対処の進歩に焦点をあてて評価する。ティルトが激しかった日はプレイ終了後、できるだけ早く書き留める(メンタルハンド履歴のステップ1をする)。最悪のときはとりあえず書き留めておく。

個別項目のなかで参考になったもの
  • 利益確定
    伝統的に利益確定(勝っているセッションで悪い流れが続いたとき、勝っている内にセッションを終了する)は良いこととされていたが、必ずしもそうではない。自身のレベルが落ち、明らかにプレイの質も落ちているときは利益確定は良い選択。ティルトの問題が改善しつつあり、コントロールできるようになっているなら、あと少しだけプレイする(メンタルスキル強化、解消に有効)

  • 分散をコントロールしたいという欲求
    多くのプレイヤーが心の奥深くで望み願っている。不幸な結果に見舞われたとき怒り狂うのは当然の反応だが、その後のプレイの質に影響するなら問題がある。分散そのものはコントロールできない。それに自身がどう反応するかのみをコントロールできる。

  • 競争心
    競争心自体は成功のために素晴らしい気質。しかし、プレイしているときには常に金のみではなく、自信や名声、自分のゴールに向けた進捗等、自分が思っている以上のものを賭けている。そのため、いざ短期的な負けが発生するとティルトしてしまう。
    競争心が強いことや負けてイライラすることは問題ではない。自分の投資を大事に思うことの現れであり、適度な欲求不満はモチベーションに繋がる。
    解消法のヒントは、勝利を定義する(特にリスペクト、努力、達成のような測定の難しいものについての定義が重要)、負けは続くという仮定を取り除く(過去を振り返れば、負け続けると思っても実際はそうならなかったことをリラックスしているときに思い出す)。

  • スキルの喪失
    プレイヤーはしばしば、金を失うことで自らのスキルも失われたように思いこみがちである。しかし、無意識的有能のレベルで学んだスキルはティルトしているときでさえ失われない。
    この幻想の発生理由は、①金とスキルを同一視している、②無意識的有能にあるスキルは無意識的である(当たり前のものとして捉えてしまう)、③学習中のスキルはティルト中に現れない。
    この幻想に勝つためには①自分の認識スキルを向上させる:分散、自分のスキル、相手のスキルへの認識力を高める、②自分の無意識的有能レベルのスキルを把握することが重要。

  • ミスがミスでないとき
    ポーカー(分散)は時に自身のゲームの受け止め方も欺く。すなわち、良い流れを自分の良いプレイのおかげと思い込んだり、悪い流れや1度の負けを自分の下手なプレイのせいだと思い込む。これがミステイクティルトの要因。
    ミスを犯したと思うことはそれがティルトに繋がらない限り問題ではない。逆にいえば、ミスを犯していなくてもミスを犯したと思うこと自体がティルトの原因となりうる。
    ミスが起きたことをその時点で認識する能力がこのタイプのティルトを起こさない解決策。
    習得方法としては、自分のプレイを最高なものから最悪なものまで網羅的に分析し、プレイ中に気付くようにすること。ティルトしているときのミス、それほどひどくないが下手なプレイをしたときのミス、標準的なB-ゲームのときのミスをそれぞれリストアップすることで、プレイ中にそのミスに気付けば、自分のプレイの質がすぐ確認できるようになる。

  • あからさまなミステイク
    あきらかなミスを起こすのは既にティルト状態に入っているとき。または、機械的、または自信過剰にプレイしているとき。こういったときは無意識的有能レベルの知識でプレイしている。あきらかなミスは更なるティルトの要因となる。その対策は以下の通り。
    ①ALMと尺取虫、精神的機能不全のセクションに立ち戻る。
    ②あからさまなミスをしたときはプレイを続けるかやめるか決断する。
    ③あからさまなミスに繋がるようなメンタルゲーム上の穴を埋めることを優先課題とする。

  • 死に物狂いティルト
    死に物狂いの感情は起きていることを認識しにくい。死に物狂いティルトは蓄積されたティルトの別の形である。死に物狂いティルトは別のタイプのティルトによって引き起こされる場合があるが、どのティルトが死に物狂いティルトに繋がっているかはわからないかもしれない。(筆者感想:死に物狂いティルトしてる人はときどき見かける。相当自戒しないと自分もなりうる)
    第一のゴールは、バンクロール、自信、モチベーションに大打撃を与える死に物狂いティルトの発生を防ぐこと。対策は以下の通り。
    ①切迫感を持つこと。死に物狂いティルトは簡単に消えない。改善したいなら最優先事項として取り組む必要がある。
    ②ティルトプロフィールを書く。
    損切りの線引きを厳格に行う(ティルトを防ぐ他の戦略と組み合わせることで効果を発揮する)。
    ④定期的な休憩を取る、あるいはタイマーを利用する。休憩を取ることでベストプレイからは遠ざかるが、ティルトするよりははるかにマシ。
    ⑤緊急対応策をおさらいする。毎回セッション開始前に死に物狂いティルトを防ぐ戦略を復習しておく。
    ⑥ティルトの初期的兆候が現れたら、積極的に対処する。
    ⑦小さな前進を認識する。最初のステップはティルトそのものの認識。(cf.改善の記録を取る)
    ⑧死に物狂い状態へ繋がるティルトのタイプを特定出来たら、メンタルハンド履歴を用いて解消する。
    ⑨学習プロセスをより深く理解する(2章の理解を深める)。自信を手に入れる。

第6章 恐怖

ティルトを怒りによって引き起こされるものとしてのみ定義すると、恐怖はメンタルゲーム上の問題の1つとしてあらわれてくる。
恐怖とは不安が積み重なったもの。不安とは疑念または不確実性が積み重なったもの。不確実性とは、答えがない状態、または自分の手元の答えが正しいという証拠になるほどの経験を持っていないということ。
恐怖について掘り下げ、恐怖の根源となっている疑問をあらわにすることは重要。その疑問は、深いレベルで自分が何を知りたがっているかを示している。

恐怖プロフィール

自分の恐怖のパターンを「疑念、不安、恐怖が沸き起こる典型的な状況は?」「恐怖の感情が起きるときの最初の兆候は?」「不安が過剰になりパフォーマンスを下げ始めるポイントを認識できるか?」「不安は発汗や貧乏ゆすり等、どのような形であらわれるか?」といった質問で分析し、特定する。恐怖を示すよくある5つの症状は以下の通り。
①考えすぎる:根元的な質問に対する答えを見つけられず、答え探しに必死になり疲れ切ってしまう。対処法は、自分の考えていることを書き付けることで本質的な質問を特定し、その答えを書き出す。
②自分の直感が信用できない:直感とは無意識的有能のレベルのスキルが反応して出した答え。ただし、訓練されたものが古くなっている場合、その知識に弱点があるため、修正する必要がある。
③事後にくよくよ悩む:プレイ中に先程の選択に疑問を持つ。対策は、手早くメモを取ってプレイ後に改めて検討する。
④パフォーマンスへの不安:正しい決断を下さねばというプレッシャーを自分にかけすぎる。対策は、ポーカーのプレイを自分のプレイのテストだと捉えること。
⑤否定的な未来:未来に起きるかもしれない恐ろしい出来事という恐怖への恐怖。予測したことが実際に起きるだろうという信念により発生する。

恐怖を解消するための一般的戦略

恐怖の原因である根元的問題や考えを書き出し、外在化させ、詳細な部分まで客観的に把握することが効率的な戦略。以下の2つが具体的な方法。

①恐怖を展開させる
恐れていることに対して「起こりうる最悪の結果は何か?」「なぜそれが悪いことか?」「何が起きうるか?」「自分はそのときどうするか?」「自分はそれに対してどう思うか?」「解決策は何か?」と質問を展開し、答えていくことで本質的不具合を分析する。

②質問に答える
自分の中にある不確実性を質問の形で表現する。未来についての質問でまだ答えが出せていないものを別の言葉に置き換える(ex.「この悪い流れはいつ終わる?」⇒「悪い流れに対処するのがもっとうまくなるにはどうしたらいい?」)。そしてそれらの質問に答える。

第7章 モチベーション

モチベーションとはゴール達成へと駆り立てる感情やエネルギー。モチベーションの問題を抱えているということは、ゴール設定またはゴール達成のためのエネルギーのどちらかに問題があるということである。また、モチベーションの問題と思っているものは別のメンタルゲーム上の問題である可能性がある。
安定したモチベーションは、ゴールとそこへ達するためのエネルギーの適切な組み合わせによる。この中庸の状態は人によって異なる。自分にとっての安定したモチベーションを見つけ出す方法は、モチベーションの問題の根源的原因を解消すること。
よくあるモチベーションの問題のうち、参考になったものを抜粋。

  • 怠惰
    怠惰とは学習されたスキルであり、他のことをする強力なモチベーションである。人はしばしば、それまで従っていた生活パターンがなくなったとき怠惰になる。
    怠惰の問題に取り組むには、ポーカーを零細企業の経営(すべてを自分の責任で行う)のように捉える。そのスキルを身に着ける方法は以下の通り。
    自分がやっていることで良いことをすべて見つけ出す⇒自分がやるべきことを全てリストにして書き出す⇒やるべきことの中で最重要なものを優先事項としてあげる⇒それをどう始めるべきか、無理のない計画を立てる⇒それをこれまでやらなかった言い訳を書き出す⇒その言い訳がなぜ間違っているか、どこに欠陥があるか書き出す⇒計画通り実行し、同じ言い訳をしないようにする

  • 先延ばし
    先延ばしとは、常に何か大事なことを遅らせたり後回しにしたりすること。解決策は、明日があるさという考えを捨て、継続性を身に着けること。知識を無意識的有能のレベルまで学ぶには、2週間に一度まとめて勉強するより、毎日15分ずつ勉強した方が効率的。着実なペースで作業をする。

  • ゴールの問題
    結果思考のゴールしか持っていない:下振れのときにモチベーション低下に繋がる。対策はティルトコントロールがうまくなる、ミスの数を減らす等のプロセス志向ゴールを設定する。
    高すぎる期待:達成するのがほぼ不可能な期待を自分にかけている。そして失敗しモチベーションを失う。対策は、期待はすべてゴール設定に転換し、到達する方法を考える。
    遠すぎるゴール:長期的ゴールしか持っておらず、下振れでモチベーションが喪失する。対策は、長期的なゴールを小さなレベルへ落とし込み、短期的なゴールを設定する。
    節目となる目標の達成:次のゴールを設定していないとモチベーションを喪失しかねない。
    優柔不断:何を求めているか自分でもわかっていない状態。探索期間と捉え、いずれ自分の求めるものが何かを決断する。自分の選択肢を書き出し、検討し、他のプレイヤーからフィードバックを受けることが効果的。
    潜在的なゴール:恥をかかない、ミスをしない、批判されない、金を失わない、勝率を落とさない等の潜在的ゴールによりプレイしなくなる。潜在的ゴールを達成したいと思う理由を解消すべき。
    個人的ゴール:ポーカーをプレイする必要に迫られているにもかかわらず、ポーカー自体にモチベーションが見いだせない場合、自分の人生におけるポーカーの位置づけを再考する。ポーカーが自分の人生に重要な意味を持つようなゴール設定をする(筆者感想:「ポーカー」以外にも通ずる話で非常に示唆に富む)。

  • 才能だけに頼り続ける
    順調に成功を収めたため、逆境に対処する能力がない(逆境への対処は成功者が共通して身に着けているスキル)。逆境に直面したときはメンタルを強化すべき時。ゴールの再確認や修正、達成したい理由の明確化、達成のための計画立案、勉強意欲の高い人に助けを求めるといった方法で対処する。

  • 学習の欠如
    学習は人の心をアクティブにし、集中させ、没頭させるエキサイティングなもの。無意識的有能のレベルまで何かを学んだ場合、それは習慣化され、退屈になる。
    対策例は以下の通り。
    ・退屈さを合図として捉える:何か新しいことを学ぶべき合図と捉える
    ・より詳細な部分へと探求を深める:大枠を学んだら、小さな優位性が発生するスキルを学ぶ
    ・達人の領域は常に変化し続けていることを忘れない:学ぶべきことがなくなることはない。見つけづらくとも学ぶべきことは常にある
    プロセスモデルを用いて、継続的な学習と詳細な部分への集中につとめる
    ・よりタフなゲームをプレイし、自分の弱点を見つけ出し評価する ・スキルが無意識的有能のレベルに到達するまで学習を続ける:無意識的有能のレベルに到達したと思い込んでいる場合。強烈なプレッシャーのもとでプレイしても安定して維持できて初めて到達したといえる

第8章 自信

自信が結果と完全に結びついている間は、自信による感情の浮き沈みを避けることが困難。解放されるには、自信に対する根元的欠陥を解消する必要がある。
一般的に成功や勝利を収めるには自信が必要だと考えられている。自信を持つことは大事だが、実は多くの人が思っているほどは重要でない。
自信は結果やスキルの尺度としては信頼を置けない。その理由は、①メンタルゲームに存在する根元的欠陥が、自身のプレイの質について不正確な評価を作るため、②自信の基盤は短期的な結果だが、短期的な結果はスキルの証拠としては信頼できず、故に自信の根拠も信頼できないため。
ポーカーは他の競技と比べ、結果からスキルレベルを推測するにはあまりにも大きなサンプル数が必要であり、大きなサンプルが集まる頃にはスキルレベルが変化している。

そのため、プレイの質を維持するために安定した自信を維持することが重要。 安定した自信を持つということは、分散によって自信が極端に振り回されないこと。それが可能なのは、結果とスキルに基づいて、自分がどれほど強いか短期的に確信を得ている場合。安定した自信とは、高いレベルでプレイできる中庸の状態。そのための重要な3つのスキルは、分散を認識するスキル、自分のスキルを認識するスキル、相手のスキルを認識するスキル。

分散を認識するスキル

3つの中で最も重要。分散はコントロールできないが、分散を認識できれば、ミスプレイの特定や、短期的にどれくらいうまくプレイできているか、結果にどの程度分散が影響しているかを評価できる。そのためのアイデアは以下の通り。

①プレイ中に分散がかかわったのではないかと疑わしいハンドを記録する(筆者感想:ここでの「分散」は「確率通りでない」程度の意味?) ②セッションを振り返る前に、そのセッションが良い流れだったか悪い流れだったかを評価する。その後、レーティングや分散が影響したと思われるハンドを用いて評価を裏付ける。(筆者感想:上振れか下振れかの自分の感覚と、実際にどうだったかを近づける作業?) ③自分の分散への評価とプレイの良し悪しの評価を組み合わせて、実際の結果と比較する

自分のスキルを認識するスキル

短期的な結果は自身のスキルの評価において信頼に欠ける。自分のスキルを認識することで、自分が上手くプレイできているか知る。自分のスキルを認識するスキルを向上させるアイデアは以下の通り。

①間違いなく無意識的有能のレベルにある強みを特定する。そのために、ティルトしているときや強いプレッシャーがかかっているときでも堅実だった部分のプレイを分析する。
②自分の最も弱い部分のリストを作る。すなわち、最低なプレイをしているときに現れる大きなミスのリストの作成。弱点を特定することで自分の改善点がわかる。また、それらはティルトやメンタルゲームの問題と繋がっていることが多いため、プレイ中の問題のコントロールにも役立つ。
③自分のプレイを最低からベストの状態まで明らかにする。そのために、B-ゲームでのミスが何か、どの部分がB-ゲームをC-ゲームより良いものにしているか、何をもってA-ゲームになるかを考える。
④自分のプレイについて常に評価・反省する。どれくらいうまくプレイしたか、どこが改善したか、さらに努力を必要とするのがどこかを分析する。

相手のスキルを認識するスキル

ゲームにおいて自分の優位性を認識する能力を強化するためには相手のスキルをより正確に認識できることも必要。その方法は以下の通り。

①相手が上手くプレイしたことや下手なプレイをした例を特定する。自分と比較しての相手の強みと弱みを客観的な視点から把握する。それは自身プレイの客観視にも繋がる。
②相手のプレイについての自分の考えをオープンで柔軟なままにしておく。それによって相手の変化や修正に対して、自分の認識をすぐ修正できる。
③カギとなるハンドを相手の立場から分析する。
④他のプレイヤーについて、セッション中に明らかにポジティブorネガティブな事柄が見かけられなくとも、手短にメモを取る。
⑤上手いプレイヤーにどうやって相手のスキルを認識しているかアドバイスを求める

感想

本書を端的にまとめると『メンタルゲームの改善とは「無意識的有能の状態にある欠陥を修正する」作業である。そのためには、改善のプロセス(尺取虫モデル)をよく認識し、自分のプレイの分析(書き出すことが有効)から欠陥を特定し、解消に向け、着実に改善を図る必要がある』というところだろうか。
私はポーカーより麻雀の方に馴染みがあるため、そちらに連想を飛ばしながら読んだ。ポーカーや麻雀に限らず多くのものに適用可能な、非常に示唆に富んだ一冊だった。
本文でも言及されている通り、いろいろな場所にいろいろなアイデアが豊富な例と共に書かれているため、なかなか全体像は把握できず、一度で理解できない内容になっている。通読したあとは、本書の筆者が言う通り、何か問題があるとき、参考になる部分はないかと解決策を探索しに読むのが良いのかもしれない。

あと、そこそこ長いこと麻雀をやっているので、あの人よくこんなティルトしてたよなとか、あの日の自分は完全にこのティルトだったなとか、そんなあれこれに思いを致してしまった。
面白かったのでごりごり読めたしごりごり書いてしまったが、少し書きすぎてしまったかもしれない。しかし実際に買って通読する価値のある本。

余談:原文が英語のこういう本が、比喩と例だらけで一読してばらばらしているように感じるのは何なんだろう。翻訳だからか。それともビジネス本、ノウハウ本はこうやって書くべしというライティングの文化や技術によるものなんだろうか。誰か教えてほしい。