昔取ったポカリスエット柄

読んだ本の感想とか、日常の出来事や考え事を書いていくタイプのブログ。

要約・書評:超一流の雑談力

もうすぐ正月休みが終わってしまう。とても悲しい。

超一流の雑談力

(安田正,文響社,2015)

2015年話題になった本。出てすぐ立ち読みして、実家に帰ったらあったので読み直しました。

流行る本というのは広告戦略が優れていて発行されてすぐ売れるか、内容が良くて口コミでじわじわ広まるかの2パターンあるかと思うんですが、これは前者だと思います。

去年の6月くらいからよく新聞広告や本屋の平積みで見ていて、そしてどうも結構売れていたようです。最近だと一昨年あたりから「外資系○○(コンサル,金融機関)の××(プレゼン,資料,Excel等)」みたいなノウハウ本の宣伝がやたら増えたのを思い出させるような感じです。

理由はどうあれ、話題になるということはその存在・現象自体が権威を持ち始めるということでもあるので、権威に対して特別忌避する姿勢を取らない私は流行りに乗って本を読んだりします。

論旨

雑談とは意味のない無駄話ではなく、また単なるコミュニケーションの手段でもなく、人生全体に良い影響を与えるものである。雑談という人に好かれる技術によって、人間関係や仕事の質は変化する。その会得に、身体能力や特別な才能は不要である。

本書では、具体的な雑談力向上のための38のトピックが書かれている。以下、その一部を示す。

  • 好感を持たれる自己開示

    人の評価は開始1分で決まるため、軽い失敗談などで親近感を覚えてもらう。

  • オノマトペの活用で臨場感のある雑談を

    テッパンの話は練習しておく。

  • (ビジネスにおける)雑談は目的を持って

    相手の置かれた状況やプライベートを知る等、具体的なゴールを設定し、話を広げていく。

  • 声の高さはファかソ

    普段の声よりも高めで話すほうが親しみやすく心地よい。

  • 開口一番は「よろしくお願いします!」

    笑顔でよろしくお願いされて(あいさつされて)嫌な人はいない。

  • 必要なのはFunnyではなくInteresring

    異なるジャンルで5~6個程度、人が興味を持つ雑談ネタを常に仕入れておく。

  • 会話の内容はメモに残しておき、次回の面談に活かす

    次会ったときにまた一から関係性の構築を行うのはロスが大きい。

  • 相手のバックグラウンドや意図を深堀りできる質問を

    「なぜ?」等の相手に負担をかける質問はNG。相手の返答をシミュレーションしながら。

  • 雑談の仕方、内容は相手によって変える

    結論を優先し、雑談を嫌う人もいる。

感想

具体例が豊富で読みやすい。一方、よくある会話テク本といえばそれまで。心理学というよりは処世術にかなり寄った内容。

この類の本は大学受験生の頃に読み漁った記憶があって、それなりの時間が経過しているにもかかわらず、それらと比べて特別真新しいことがたくさんという印象は受けなかった。

多くの業界において、営業職とは雑談力と専門知識がほぼ全てであろうと推察されることを考えると(少なくとも私がいまいるあたりやその近所ではそうだ)、筆者の雑談の重要性にかかる主張に関しては全く同意見で、各論についても頷けるものが多かった。ただし、全体としてはちょっとぼやけている印象を受けた。

最近ひしひしとコミュ力不足を感じている(あるいは車輪の再発明ちっくな再認識をしている)ので、こういった本も参考にしながら仕事でのコミュニケーションについて再考したいところ。

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要約・書評:外資系金融の終わり

どうも、せんしゅです。食べるのと寝るのと読む、麻雀を打つくらいしかしていないので、この正月休みはとても充実しています。

この正月に読んだ本を。

外資系金融の終わり

(藤沢数希,ダイヤモンド社,2012)

3年くらい前に流行って、1年くらい前に今更感と共に購入し、ようやくこの正月休みに読んだ本。

作者は最近恋愛工学の教祖として有名な人で、物理博士号取得後、外資系金融機関でトレーダーをしていた藤沢数希氏。

本の内容としては、ここ10年ほどのマクロ経済の主要トピックを、世界の金融機関の実情を交えながら語っていくというものだ。

論旨

世界の資本主義経済は大きな岐路にある。これまで欧米経済、新興国経済の発展に貢献してきたと思われていた金融コングロマリット*1が市場原理の働かない組織と化してしまっている。市場原理が働かないとは、2008年のリーマンショックにおける、巨大金融機関破綻による金融システムの崩壊、世界経済への影響と、その阻止のために政府が公的資金を投入せねばならない状況となったことによって露見した、巨大金融機関の「Too Big to Fail(大きすぎてつぶせない)」という状態のことである。

すなわち、この危機に際して大きな損失を出し、場合によっては税金による救済を受けているにもかかわらず、これらの金融機関のトップマネジメントやリストラされなかった社員たちは、失業せず(ある程度の減額はあったにせよ世間的には)巨額の報酬をもらい続けているといったモラルハザードが発生している。


かつては金融工学を駆使し、証券化デリバティブ商品*2の開発、販売によって世界経済に恩恵をもたらしていると考えられていた金融機関たちが、サブプライムローン証券化(詳細後述)によって世界金融危機を引き起こした。

しかしそれらのデリバティブ商品が金融機関同士の複雑な絡まりあいを発生させ、金融システムのシステミック・リスク(=金融商品の絡まりあいによる連鎖倒産リスク)を大きくし、「Too Big to Fail」に加え「Too Entangled to Fail(絡まりすぎてつぶせない)」という状況を引き起こしている。これは金融工学の敗北に他ならない。


ここ20年ほど、金融機関は一般的な企業と異なり、巨大化することがトレンドだった。一般的な企業はコングロマリット・ディスカウント(企業が直接関連性のない事業を同時に展開しているために、経営資源の分散により競争力が低下。企業としてのリスク分散は図れても、投資家はうまくリスク分散が図れなくなり結果、株価が低下する)が発生すると考えられる。一方で、金融機関の仕入れる原材料とは金であり、金の値段(=金利)はその機関の信用によって決定する。すなわち、巨大な金融機関は信用が高く安く調達ができ、「Too Big to Fail」という暗黙の政府保証がつくため更に有利となる。ここに、コングロマリット・プレミアムが発生している。

しかし、Too Big to Failの金融保護主義社会主義的発想であるため、今後、世界のトレンドは規制と保護で潰さないのではなく、分割してつぶせるようにする方向に進むのではないか。バーゼルⅢ等の自己資本規制による仕入れコストの増加が暗黙の政府保障による利得より大きくなった場合、金融機関は大きいと損になる。また、大きすぎ複雑すぎる金融機関は取っているリスクが不明瞭となり投資家から嫌われるため、コングロマリット・ディスカウントが発生するということも考えれられる。

筆者も現在、ヘッジファンド設立に向け準備をはじめている。

サブプライムローンについて

サブプライム住宅ローン(優良prime層の下、信用の低い個人向けの住宅ローン)を束ねて(1つ1つの債権は独立してリスクが高いという仮定の下で、それを束ねればリスクは分散し安全性は高くなるという理論の下)、リスク毎に住宅ローン担保証券MBS(Mortgage Backed Securities)として販売し、リスクの高いMBSをまた束ねてリスクの小さなCDO(Collateralized Debt Obligation)として販売する。2003年ブッシュ政権時の「アメリカンドリーム・ダウンペイメント(=住宅ローンの頭金)・イニシアティブ」等の法律に代表されるような、貧困層にもマイホームをというアメリカの経済政策との相乗効果によって一気にバブルを生んだ。すなわち、アメリカ人が家を買うことによって不動産価格が上昇し、MBSCDOに投資した人々が儲かり、アメリカ人がより低い金利で不動産を購入でき、バブルが発生した。

そして、2007年8月、複雑なCDO流動性の低さを露呈(パリバ・ショック/サブプライム問題)したことにより、バブル崩壊がはじまった。

感想

筆者は金融コングロマリットの解体を主張している。現在の巨大金融機関は、顧客と同じように自己勘定での投資を行い、それを収益源とする利益相反構造を抱えながらも、「Too Big to Fail」であるために失敗したときは政府に救済されるというモラルハザードの温床のような環境にある。

彼らの自己勘定での投資、顧客の資産運用、売買の仲介、調査・情報提供、融資といった業務が一体となることで発生する利益相反や発生しうるモラルハザードを解消すべく、機能別に分割していくべきだというのである。


理論的には非常に正しい主張だと思う。数式をいじればきれいに筆者の主張が導かれるような感じ。一方、実際は金融コングロマリットの存在が巨大な既得権益であるがゆえに、その解体は難しいのではないかとも感じる。

2012年に書かれた本なので、今現在はどうなっているんだろうと考えてみると、2013年3月にバーゼルⅢの対応がはじまって以降、邦銀も劣後債発行したり色々対策にてんやわんやだけれど、調達コストの上昇に伴う金利上昇なんて話は聞かないし、日本経済に引っ張られて業績もいいしといったところ。

あとはこんな記事がヒットしたり。

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-O055DM6JIJUS01.htmlwww.bloomberg.co.jp

うーん…。


そのほか、金融の話以外のところ、つまり外資系金融機関の実態だとか、そういったところも非常に面白かった。

どの業界にも多かれ少なかれ通ずるところがありますね。

外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々

外資系金融の終わり―年収5000万円トレーダーの悩ましき日々

  • 作者:藤沢 数希
  • 発売日: 2012/09/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

*1:ゴールドマンサックス、バンクオブアメリカ、バークレイズ等の投資銀行≒証券会社や銀行、ヘッジファンド等の機能を持つ巨大金融機関

*2:金融派生商品と訳される。本来的にはリスクヘッジ、リスクの最適分配のために用いられる