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昔取ったポカリスエット柄

読んだ本の感想とか、日常の出来事や考え事を書いていくタイプのブログ。

要約・書評:「学力」の経済学

「学力」の経済学

(中室牧子,ディスカヴァー・トゥエンティワン,2015)

本屋を歩いていてふと目についた本。

論旨

教育に関しては、素人でも、自らの主観的な経験に基づき意見を言いたがる。
それに対し、教育経済学とはデータを経済学的見地から分析し、規則性を見出す学問である。(ex.親の年収、学歴が高いほど子供の成績は良い)

子供を全員東大に合格させた母親の体験談などは特殊例。真似して効果が得られるかは疑問。

ただし、因果関係と相関関係の取り違えに注意。
cf.

sensyu.hatenadiary.jp

  • 子供をご褒美で釣ってはいけないか?

教育の収益率→一年間追加で教育を受けたことによる子供の将来の収入がどれくらい増加するか
→株や債券等の金融資産への投資に比して高い

しかし、人は目先の利益を優先しがち(cf.割引率)
→目の前ににんじん(ご褒美)を与えることで、子供を今勉強するよう仕向けることができる。

教育生産関数(家庭資源と学校資源というインプットを学力というアウトプットに変換する生産関数)
→ハーバード大のフライヤー教授の研究によると、勉強のアウトプット(試験結果、成績表等)とインプット(出席、読書、練習問題を解く等)にそれぞれインセンティブを与えた場合、アウトプットでは学力に影響がなかったものの、インプットでは学力が向上した。
→アウトプットにインセンティブを与えられても具体的に何をすればいいかわからないためこうなった。
→アウトプットにインセンティブを与える場合、成績を上げる方法を教えられる人が必要。

また、フライヤー教授の検証によれば、外的インセンティブ(ご褒美)によって、内的インセンティブ(好奇心、関心)は統計的に有意には失われない。

  • お金は良いご褒美か?

シカゴ大のレヴィット教授(ヤバい経済学の人)によれば、小学生に対しては4ドルのお金よりも4ドルのトロフィーの方が効果的だった。一方、同じ実験で、中高生以上には、お金の方が効果的だった。

アウトプットではなくインプットに、遠い将来ではなく近い将来にご褒美を与えるのが効果的。(ex.テストで良い点を取ったら誕生日にお小遣い<1時間勉強したら、勉強が終わったあとにお小遣い)

  • 「褒め育て」は効果的か?

フロリダ州立大学のバウマイスター教授らの研究によると、自尊心と学力の関係については、(通常考えられているのとは逆に)学力が高いという原因が、自尊心が高いという結果をもたらす。

バージニア連邦大学のフォーサイス教授らによると、自分の授業の最初の中間試験で成績が悪かった学生たちを、やればできるというメッセージを送った集団と事務的な連絡を送った集団、事務的な連絡に加え責任感の重要性を説くメッセージを送った集団に分けたところ、成績が平均よりやや下だったグループでは差が見られなかったものの、成績が下位あるいは落第だったグループでは、自尊心を高めるメッセージの集団の期末試験の成績が他の2グループに比して有意に低かった。
→学生の自尊心を高める介入は、学生の成績を決して良くすることはない。

  • 褒め方

コロンビア大学のミューラー教授らによると、子供の元々の能力を褒めると、子供達は意欲を失い、成績が低下する。
→子供を褒める時は、具体的に達成した内容をあげることが重要。

  • テレビ・ゲームは子供に悪影響を与えるのか?

テレビやゲームの利用時間と、子供の発達や学習の関係には相関関係があるが、複数の研究において、テレビやゲームそのものが子供に与える負の影響は我々の想像ほど大きくないとの結果が出ている。
著者らの研究に基づく推定では、一日一時間程度のテレビやゲームは全く影響がない。一方、1日二時間を超えると負の影響は飛躍的に大きくなる。

  • 勉強しなさい、は効果があるか?

勉強するように言うことは効果がなく、特に母親が娘にそう言うことは逆効果。
勉強を見ている、勉強する時間を決めて守らせる等、手間暇のかかるかかわりは効果大。

男の子には父親、女の子には母親が関わると良い。最近の研究でも特に苦手科目の克服には教師と生徒は同性が良いとわかっている。
ただし、親の代わりに祖父母、兄弟、他の同居者でも親同様の効果が得られる。

  • 友達が与える影響

ピア・エフェクト=周囲から受ける影響

ex.
平均的な学力から受ける影響→ホックスビィ教授の研究によれば、平均的な学力の高い集団の中では自分の学力にもプラスの影響がある
優秀な同級生から受ける影響→スウェーデンの高校生のデータを用いた研究では、優秀な子供に影響を受けるのは上位層だけ(学力の低い層には逆効果)
問題児から受ける影響→フィグリオ教授の研究によれば、問題児の存在はクラスの学力に負の影響を与える
習熟度別学級の影響→デュフロ教授らの研究によると、ピア・エフェクトの効果を高め、全体の学力を押し上げる。特に大きく学力上昇したのは元の学力が低い層。ただし、ハヌシェク教授の研究では、子供の年齢が低い時に習熟度別学級を実施すると、格差が拡大し、平均的な学力も下がる。

引っ越しが負のピア・エフェクトを小さくすることもある (cf.孟母三遷)

  • 教育への投資はいつがいいのか

最も収益率が高いのは、幼児教育。人的資本への投資はとにかく小さいうちに行うべき。教育の中には体力健康、しつけも含む。

ヘックマン教授らによるペリー幼稚園プログラム(40年にわたる追跡調査)
幼児教育は雇用、生活保護の受給、逮捕率などにも影響あり。社会への好影響、社会収益率はヘックマン教授らによると年率7〜10%と推定される。

幼児教育によって改善されたのは非認知能力(=自己認識、意欲、忍耐力、自制心、メタ認知ストラテジー、社会的適性、回復と対処能力、創造性、性格的な特性)
IQ等への影響は8歳頃までになくなる
非認知能力は認知能力以外にも労働市場における成果にも影響。

重要な(子供の人生の成功に長期にわたる因果関係を持ち、トレーニングで鍛えられる)非認知能力は自制心(cf.マシュマロ実験)とやり抜く力(cf.ダッグワース准教授のTEDスピーチ)。

自制心は筋肉のように、何かを繰り返し継続的に行うことで鍛える。

やり抜く力はしなやかな心=「自分の能力は生まれつきではなく努力によって後天的に伸ばせると信じる心」が重要。

  • 少人数学級に効果はあるか?

20人以下にすれば減らすほど(特に貧困層、低成績層で)効果はあるが、他の政策に比して費用対効果は低い。

最も費用対効果が高かったのは、貧困アクションラボの研究によれば「学歴と年収のデータを用いて統計的に算出された教育の収益率を知ること」である。
(「高校卒業後すぐ働き始めた人と大学を卒業して働き始めた人の間では、約1億円、生涯収入に差がある」と知る等)

海外のデータを用いた政策評価において、少人数学級や子供手当は対費用効果が低いことがわかっている。
日本のデータにおいても、慶應大の赤林教授らによれば、小学生の国語を除いた全科目と中学生において少人数学級の効果はない。

家庭の資源が学力に与える影響は非常に大きいため、もし学力テストの県別、学校別データを公開するなら家庭の資源のデータと紐付けて公表すべき。

  • いい先生とは?

チェティ教授らによると、子供のある期間の学力の上昇幅で表される「付加価値」は教員の質を計測する指標として有用。(カリフォルニア州ではウェブで公開されている)

教員をご褒美で釣ること、教員研修を行うことで教員の質が向上するというエビデンスは決して多くない。

  • 能力が高い人が教員になるのを妨げる、教員免許という参入障壁を排除すべきか?

→教員免許は教員の質を担保していない。免許ありとなしを比較したときの付加価値の平均値の差は小さく、その10倍、教員あり免許の上位と下位に差がある。 [*実験で免許なしの教員は一流大学を卒業したばかりの若者達。能力の低い人の排除はどうする?]

  • 統計の取り方

エビデンスの5階層
ランダム化比較試験
非ランダム化比較試験
分析免疫研究
症例報告
専門家の意見

セレクションバイアスの排除

感想

教育の現場に教える側の立場でいたことがあるだけの人による、データに基づかない議論だけの本に辟易していた(といいつつも教育・自己啓発関連で面白そうな本があればつい読んでしまう)身としてはとても興味深く通読できた本。

教育においては家庭資本が重要で、教師の質はそれほど重要でないという結論を出した次の章で、教員の質は生徒の成績に大きな影響を与えると書かれているのにはちょっと違和感があった。とはいえ、この本の価値を毀損するような問題ではないとおもうけれど。

まさしくこの本の最初で指摘されている通り、私自身、塾講師バイトで小中学生に理科数学社会の集団授業をしていた程度の素人だが、教育に関しては論じたいことがいくつかある。
個人の経験に基づく議論それ自体を否定するほど暴力的でも愚かでもないつもりだが、とはいえそういった話をするのはまた次の機会にしたい。

とにかく、筆者の根幹となる主張には全く同意で、教育はもう少しエビデンスに基づいた手法で行われるべきだし、教育政策はもう少し科学的な手法を取り入れるべきだ。
教育学を学んだことがない身でこういうことを言うのは甚だ恐縮であるけれど。

要約・書評:超一流の雑談力

もうすぐ正月休みが終わってしまう。とても悲しい。

超一流の雑談力

(安田正,文響社,2015)

2015年話題になった本。出てすぐ立ち読みして、実家に帰ったらあったので読み直しました。

流行る本というのは広告戦略が優れていて発行されてすぐ売れるか、内容が良くて口コミでじわじわ広まるかの2パターンあるかと思うんですが、これは前者だと思います。

去年の6月くらいからよく新聞広告や本屋の平積みで見ていて、そしてどうも結構売れていたようです。最近だと一昨年あたりから「外資系○○(コンサル,金融機関)の××(プレゼン,資料,Excel等)」みたいなノウハウ本の宣伝がやたら増えたのを思い出させるような感じです。

理由はどうあれ、話題になるということはその存在・現象自体が権威を持ち始めるということでもあるので、権威に対して特別忌避する姿勢を取らない私は流行りに乗って本を読んだりします。

論旨

雑談とは意味のない無駄話ではなく、また単なるコミュニケーションの手段でもなく、人生全体に良い影響を与えるものである。雑談という人に好かれる技術によって、人間関係や仕事の質は変化する。その会得に、身体能力や特別な才能は不要である。

本書では、具体的な雑談力向上のための38のトピックが書かれている。以下、その一部を示す。

  • 好感を持たれる自己開示

    人の評価は開始1分で決まるため、軽い失敗談などで親近感を覚えてもらう。

  • オノマトペの活用で臨場感のある雑談を

    テッパンの話は練習しておく。

  • (ビジネスにおける)雑談は目的を持って

    相手の置かれた状況やプライベートを知る等、具体的なゴールを設定し、話を広げていく。

  • 声の高さはファかソ

    普段の声よりも高めで話すほうが親しみやすく心地よい。

  • 開口一番は「よろしくお願いします!」

    笑顔でよろしくお願いされて(あいさつされて)嫌な人はいない。

  • 必要なのはFunnyではなくInteresring

    異なるジャンルで5~6個程度、人が興味を持つ雑談ネタを常に仕入れておく。

  • 会話の内容はメモに残しておき、次回の面談に活かす

    次会ったときにまた一から関係性の構築を行うのはロスが大きい。

  • 相手のバックグラウンドや意図を深堀りできる質問を

    「なぜ?」等の相手に負担をかける質問はNG。相手の返答をシミュレーションしながら。

  • 雑談の仕方、内容は相手によって変える

    結論を優先し、雑談を嫌う人もいる。

感想

具体例が豊富で読みやすい。一方、よくある会話テク本といえばそれまで。心理学というよりは処世術にかなり寄った内容。

この類の本は大学受験生の頃に読み漁った記憶があって、それなりの時間が経過しているにもかかわらず、それらと比べて特別真新しいことがたくさんという印象は受けなかった。

多くの業界において、営業職とは雑談力と専門知識がほぼ全てであろうと推察されることを考えると(少なくとも私がいまいるあたりやその近所ではそうだ)、筆者の雑談の重要性にかかる主張に関しては全く同意見で、各論についても頷けるものが多かった。ただし、全体としてはちょっとぼやけている印象を受けた。

最近ひしひしとコミュ力不足を感じている(あるいは車輪の再発明ちっくな再認識をしている)ので、こういった本も参考にしながら仕事でのコミュニケーションについて再考したいところ。

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